コラム
COLUMN家族信託の認知症対策 契約の判断基準と5つの手順
家族信託の認知症対策 契約の判断基準と5つの手順
「親が認知症になったら、預金や実家はどうなるのだろう」
そう考えて家族信託を調べ始めた方は少なくありません。家族信託は、認知症による「資産凍結」を防ぐ有効な備えです。ただし契約には判断能力が必要で、発症後では難しくなる場合があります。
この記事では、認知症でも契約できる判断能力の境界、最終判断を担う公証人の確認ポイント、成年後見制度との違い、そして進め方の5つの手順を、立川・小平の相続専門行政書士が分かりやすく解説します。「いつ始めればよいか」の判断材料としてお役立てください。
お急ぎの方へ:「親の判断能力が落ちてきた気がする」など、タイミングにお悩みの場合は、初回無料相談で現状をお聞かせください。土日祝日も午前9時〜午後6時まで電話で承っています。
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認知症による「資産凍結」とは 家族信託が対策になる理由
まずは、なぜ家族信託が認知症対策として注目されるのか、その背景にある「資産凍結」の問題から整理します。
認知症で起こる「資産凍結」のリスク
ご本人の判断能力が低下すると、預貯金の引き出しや定期預金の解約、不動産の売却・賃貸といった契約行為ができなくなります。金融機関は、ご本人の意思確認ができないと判断すると、口座の取引を制限することがあります。これがいわゆる「資産凍結」です。
資産凍結が起きると、ご家族が立て替えで介護費や施設入居費を負担せざるを得なくなったり、空き家になった実家を売れずに固定資産税だけが続いたりします。「親にお金はあるのに使えない」という状況です。
たとえば、施設入居の費用を捻出するために実家を売りたいのに、名義人であるお母様の判断能力が低下しており、ご本人では売買契約を結べない。
このような場合、家族信託の備えがなければ、家庭裁判所に成年後見を申し立て、後見人の選任と裁判所の許可を待ってから売却する流れになります。手続きには数か月かかることも珍しくありません。
厚生労働省の研究班が2024年に公表した推計では、認知症の高齢者数は2040年に約584万人(65歳以上の約7人に1人)に達するとされています。決して他人事ではない備えといえます。
家族信託の仕組み(委託者・受託者・受益者)
家族信託(かぞくしんたく)とは、信託法にもとづき、ご自身の財産の管理・処分を信頼できるご家族に託す仕組みです。登場人物は次の3者です。
・委託者(いたくしゃ):財産を託す人。多くは親世代のご本人。
・受託者(じゅたくしゃ):財産を預かり管理・処分する人。多くは子世代。
・受益者(じゅえきしゃ):財産から生じる利益を受け取る人。一般的な認知症対策では委託者ご本人が受益者になります(自益信託)。
たとえば「父(委託者・受益者)が、長男(受託者)に自宅と預金の一部を信託する」と設計しておけば、父が認知症になった後も、長男が父のために自宅を売却して施設費に充てることができます。
家族信託が認知症対策として選ばれる理由
家族信託の最大の利点は、判断能力があるうちに「将来こう管理してほしい」という方針を、ご本人の意思で柔軟に設計できる点です。後述する成年後見制度と異なり、裁判所の許可を待たずに、契約で定めた範囲で機動的に財産を動かせます。
判断能力が低下する前から始める備えという点で、家族信託は「老老相続のリスクと対策をまとめた記事」で紹介する生前対策の一つとしても位置づけられます。
認知症でも家族信託は契約できる?判断能力の境界
「もう物忘れが増えているけれど、今から間に合うのか」
最も多いご質問です。結論からいえば、認知症の診断名があっても契約できる場合があります。鍵を握るのは「意思能力」と「公証人の判断」です。
契約に必要なのは「意思能力」(民法第3条の2)
家族信託の契約に必要なのは、医学的な「認知症かどうか」ではなく、法律上の「意思能力(いしのうりょく)」があるかどうかです。意思能力とは、自分の行為の結果を理解し判断できる能力をいいます。
民法第3条の2は、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定めています。つまり、意思能力を欠いた状態で結んだ信託契約は無効になってしまいます。逆にいえば、意思能力が保たれていれば、認知症の診断があっても契約は有効に成立し得ます。
最終判断は公証人 医師の診断名だけでは決まらない
家族信託の契約書は、公正証書(こうせいしょうしょ)で作成するのが一般的です。公正証書は、公証人(こうしょうにん)という法律の専門家が作成する公的な文書で、後の紛争で強い証拠力を持ちます。
ここで重要なのは、契約できるかどうかを最終的に判断するのは主治医ではなく公証人だという点です。病院で「認知症」と診断されていても、公証人との面談でご本人が契約内容を理解し、自分の意思を伝えられると判断されれば、契約は有効に成立します。診断名そのものが契約の可否を決めるわけではありません。
公証人が確認する意思能力のポイント
公証人は面談を通じて、おおむね次のような点からご本人の意思能力を確認するとされています。
・氏名・生年月日・住所を答えられるか
・契約書に自分で署名できるか
・契約内容を理解しているか(どの財産を、誰に託し、誰のために使うのか、信託の目的は何か)
これらを踏まえると、軽度・初期の段階であれば契約できる可能性は十分にあります。ただし判断はあくまで個別の状況によります。「うちの場合はどうか」は、早めに専門家へご相談いただくことをおすすめします。
判断能力の段階別・できる対策フローチャート
認知症対策は、判断能力の段階によって選べる手段が変わります。下の表で、ご家族の現状に近い段階を確認してみてください。
| 認知機能の状況 | 取りうる選択肢 |
| 健康なうち(判断能力あり) | 家族信託/任意後見契約/遺言 すべて選べる(最も選択肢が広い) |
| 軽度・初期(MCI・初期認知症) | 公証人面談で意思能力が確認できれば 家族信託・任意後見も可能/確認できない場合は法定後見へ |
| 進行後(意思能力なし) | 原則として法定後見制度のみ |
【健康なうち】家族信託・任意後見・遺言が選べる
判断能力がしっかりしている時期は、最も選択肢が広い「始めどき」です。家族信託で財産管理を託しつつ、療養や生活に関する代理は任意後見契約で補い、財産の最終的な承継先は遺言で定める、といった組み合わせ設計ができます。後見制度の最新動向は「成年後見制度の2026年改正をまとめた記事」で解説しています。費用や手間はかかりますが、ご本人の意思を最大限に反映できる時期です。
【軽度・初期(MCI含む)】公証人面談次第で家族信託も可能
軽度認知障害(MCI)や初期の認知症の段階では、前述のとおり公証人の面談で意思能力が確認できれば、家族信託や任意後見契約を結べる可能性があります。この段階では、医師の診断書を用意し、契約内容をできるだけシンプルに整理しておくことが成立の助けになります。「迷っている時間」が選択肢を狭めてしまう段階でもあります。
<ご相談事例:軽度の物忘れがあるお父様>
「最近、父の物忘れが増えてきた。実家の管理を自分(長男)に任せられるようにしておきたい」というご相談がありました。お父様は日常会話に問題はなく、ご自身の財産や家族関係も理解されていました。そこで信託の目的と財産をシンプルに整理し、診断書を準備したうえで公証人面談に臨んだところ、契約内容を十分に理解されていると確認され、家族信託の公正証書を無事に作成できました。早めに着手したことが成立につながった一例です。(※個別の状況により結果は異なります)
【進行後】原則は法定後見制度のみ
意思能力を欠く状態まで進行すると、新たに家族信託や任意後見契約を結ぶことは原則できません。この場合に取り得る手段は、家庭裁判所に申し立てて後見人を選んでもらう法定後見制度が中心となります。すでに資産凍結が起きている場合の選択肢については、後述の比較表もご参照ください。
家族信託と成年後見、認知症対策に向くのはどちら?
認知症対策としてよく比較されるのが、家族信託・任意後見・法定後見です。それぞれ目的も使い勝手も異なります。
3制度の比較表
| 開始時期 | 家族信託:判断能力があるうち | 任意後見:判断能力があるうちに契約 | 法定後見:判断能力低下後に申立て |
| 財産管理の柔軟性 | 家族信託:高い(契約で自由に設計) | 任意後見:中(後見監督人の関与あり) | 法定後見:低い(本人保護が最優先) |
| 積極的な資産活用 | 家族信託:売却・建替え等も設計可 | 任意後見:限定的 | 法定後見:原則不可(裁判所の許可必要) |
| 身上監護(介護・医療の手配) | 家族信託:対象外 | 任意後見:対象 | 法定後見:対象 |
| 継続コスト | 家族信託:受託者が家族なら無報酬も可 | 任意後見:監督人報酬が継続 | 法定後見:後見人報酬が継続(月2〜6万円目安) |
| 監督機関 | 家族信託:任意(信託監督人を置ける) | 任意後見:必須(任意後見監督人) | 法定後見:家庭裁判所・後見監督人 |
家族信託が向いているケース
次のような場合は、家族信託が向いていることが多いです。
・自宅の売却・建替えやアパートの管理など、積極的な財産の活用・処分を見据えている
・信頼できる家族(子など)に管理を任せたい
・後見人報酬のような継続的なコストを抑えたい
・二次相続まで見据えた承継(受益者連続型)を設計したい
成年後見が向いている・必要なケース
一方、次のような場合は成年後見制度が適しています。
・介護施設の入退所手続きや医療同意など、身上監護を重視したい
・すでに判断能力が低下しており、家族信託の契約が難しい
・親族間に利害対立があり、第三者の管理・監督が望ましい
なお、2026年に向けて成年後見制度は大きな改正が議論されています。後見類型の一本化や終身制の見直しなど、最新の動向は成年後見制度の2026年改正をまとめた記事で詳しく解説しています。家族信託と後見は二者択一ではなく、組み合わせて使うこともできます。
<ご相談事例:すでに判断能力が低下していたケース>
「母の預金で施設費を払いたいが、銀行で手続きを断られた」というご相談では、お母様はすでに意思能力を欠く状態と考えられ、新たな家族信託の契約は難しい状況でした。そこで、家族信託ではなく法定後見の申立てをご案内し、提携先と連携して手続きを進めました。一方、同居されていたお父様はお元気だったため、お父様についてはこの機会に家族信託と遺言を整え、将来の資産凍結に備えていただきました。「動ける家族から先に備える」という考え方が役立った例です。(※個別の状況により対応は異なります)
ご家庭の財産構成やご家族の状況によって、最適な組み合わせは変わります。「うちはどちらがよいか」で迷ったら、初回無料相談で一緒に整理しましょう。比較表をお手元に、お電話やお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
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認知症に備える家族信託の進め方5ステップ
ここからは、家族信託を実際に始める流れを5つのステップで解説します。判断能力があるうちに、余裕をもって進めるのが安心です。
Step1:家族会議で目的と財産を整理する
まず、「何のために」「どの財産を」「誰に託すのか」をご家族で話し合います。受託者となる方の同意と、他のご家族の理解を得ておくことが、後のトラブル防止につながります。当法人では、ご家族だけでは話しづらいテーマでも円滑に進むよう、家族会議のファシリテート(進行役)も承っています。
Step2:信託契約の内容を設計する
信託する財産の範囲、受託者の権限、受益者、信託の終了事由などを具体的に設計します。認知症対策では、ご本人を受益者とする自益信託が基本です。設計が複雑になりすぎると公証人の確認にも時間がかかるため、目的に沿ってシンプルにまとめることが大切です。
なお、すべての財産を信託できるわけではない点にも注意が必要です。たとえば年金を受け取る権利(年金受給権)は本人固有の権利のため信託できず、年金の受取口座そのものを信託財産にすることもできません。預貯金は、いったん信託専用の口座(信託口口座)に移して管理するのが一般的です。どの財産をどこまで信託に入れるかは、目的と照らして個別に検討します。
Step3:医師の診断書・意思確認の準備をする
軽度・初期の段階で契約する場合は、意思能力を裏づける資料として、医師の診断書を用意しておくと安心です。診断書の取得が必要なケースでは、かかりつけ医との橋渡しもサポートします。あわせて、公証人面談に向けて契約内容をご本人と確認します。
Step4:公証役場で公正証書を作成する
公証役場で、公証人がご本人の意思を確認したうえで信託契約を公正証書にします。多摩地域の公証役場との連携実績をいかし、面談日程の調整から当日の同席まで対応します。公証人手数料などの費用の内訳は、家族信託の費用と流れをまとめた記事で詳しく取り上げる予定です。
Step5:信託口口座の開設・不動産の信託登記
契約後は、信託財産を管理するための信託口(しんたくぐち)口座を金融機関で開設します。不動産を信託する場合は、信託の登記が必要です。登記の申請は提携の司法書士が対応します。なお、土地の信託の登記にかかる登録免許税は本則0.4%のところ0.3%に軽減されており、この軽減措置は令和8年度税制改正により2029年(令和11年)3月31日まで延長されています(建物は0.4%)。税務の取り扱いについては提携の税理士にお繋ぎします。
認知症対策で失敗しないための注意点
家族信託は万能ではありません。後悔しないために、押さえておきたい3つの注意点を挙げます。
発症前でも「ぎりぎり」は避ける
「まだ大丈夫」と先延ばしにしているうちに判断能力が低下し、契約できなくなる例は少なくありません。公証人の確認や診断書の準備にも時間がかかります。元気なうちに着手するほど、選択肢も広く、設計にも余裕が生まれます。
受託者となる家族の負担と信託監督人
財産を預かる受託者には、信託財産を適切に管理し、帳簿をつける責任が生じます。家族とはいえ負担は小さくありません。受託者が適切に職務を果たしているかを見守る「信託監督人」を置くことで、ご本人や他のご家族の安心につながります。誰を受託者にするか、監督人が必要かは、家族構成や財産規模によって判断が分かれます。
家族信託でカバーできない領域がある
家族信託は財産管理の仕組みであり、介護施設の契約や医療同意といった身上監護はカバーしません。これらは後見制度の領域です。また、相続税対策そのものではない点にも注意が必要です。複数の制度を組み合わせる設計や、誰に相談すべきかの全体像は、「相続を誰に相談すべきかをまとめた記事」も参考になります。
認知症対策は、家族信託・後見・遺言を「自分の家庭に合わせて組み合わせる」ことが肝心です。当法人は生前から死後まで一貫して伴走します。まずは現状を整理するところから、初回無料でご相談ください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 軽度の認知症でも家族信託の契約はできますか?
A. 可能なケースがあります。家族信託の可否は診断名ではなく意思能力の有無で判断され、最終的には公証人が面談で確認します。契約内容を理解し意思を伝えられれば、軽度・初期の段階でも成立し得ます。早めにご相談ください。
Q2. すでに認知症が進行しています。今からできる対策はありますか?
A. 意思能力を欠く状態では、新たに家族信託や任意後見を結ぶことは原則できません。この場合は家庭裁判所に申し立てる法定後見制度が中心の選択肢になります。資産凍結への対応も含めてご案内します。
Q3. 公証人はどのように判断能力を確認するのですか?
A. 氏名・生年月日・住所を答えられるか、契約書に署名できるか、契約内容(託す財産・受託者・受益者・目的)を理解しているか、といった点を面談で確認するとされています。
Q4. 家族信託と成年後見はどちらを選べばよいですか?
A. 財産の積極的な活用や継続コストの抑制を重視するなら家族信託、介護・医療の手配(身上監護)を重視するなら後見が向きます。両方を組み合わせることも可能で、ご家庭の状況によって最適解は変わります。
Q5. 受託者には誰がなれますか?
A. 信頼できるご家族(子など)が受託者になるのが一般的です。財産を適切に管理する責任が伴うため、ご本人や他のご家族の同意を得ておくこと、必要に応じて信託監督人を置くことをおすすめします。
Q6. 認知症対策の家族信託にかかる期間はどのくらいですか?
A. 家族会議から契約・登記まで、おおむね1〜2か月以上かかることが多いです。判断能力に不安がある場合は、診断書の取得や公証人面談の調整もあり、余裕をもったスケジュールが安心です。
Q7. 行政書士に依頼すると何をしてもらえますか?
A. 家族会議のファシリテート、信託契約の設計、医師やご家族との橋渡し、公証役場との調整までを一貫してサポートします。不動産の信託登記は提携の司法書士、税務は提携の税理士にお繋ぎし、ワンストップで進めます。
まとめ 判断能力があるうちが家族信託の始めどき
最後に、この記事の要点を整理します。
・家族信託は、認知症による資産凍結を防ぐ有効な備えです。
・契約に必要なのは「意思能力」であり、診断名があっても公証人が意思能力を確認できれば成立し得ます。
・判断能力の段階によって選べる対策は変わり、進行後は原則として法定後見が中心になります。
・家族信託・任意後見・法定後見は、目的に応じて組み合わせるのが賢明です。
つまり、家族信託の始めどきは「判断能力があるうち」です。迷っている時間が選択肢を狭めてしまうこともあります。ご家族の現状を整理することから始めてみてください。
行政書士法人リーガルライフエージェンシーは、立川・小平の3拠点・33名体制で、年間500件超の相続相談に対応しています。家族会議のファシリテートから公証人連携まで、認知症対策を一貫してサポートします。初回相談は無料、土日祝日も午前9時〜午後6時まで電話で承っています。お問い合わせフォームやお電話で、お気軽にご相談ください。
次に読む記事として、生前対策の全体像がつかめる「老老相続のリスクと対策」、相続が始まった後の進め方が分かる「相続手続きの流れ7ステップ」もあわせてご覧ください。